12月19日

カテーテル検査の意外な結果

 三日間を集中治療室で過ごして病状が安定したのを見て、一般病棟の4人部屋に移された。すぐにでもカテーテル検査を実施し、引き続いて治療を行なって貰えるものと思っていたが、そうはいかなかった。心臓病患者にはカテーテル治療(冠動脈形成術)を必要とする者が多く、順番待ちとならざるを得ない。

aaaa
カテーテル治療法
 カテーテル検査では、局所麻酔をかけた手首、肘、太ももなどの下にある動脈にカテーテルと呼ばれる直径2〜3mmほどの管を差し込み、心臓の冠動脈に達したあたりで造影剤を注入して、冠動脈の状態をレントゲンで撮影して狭窄病変がないかどうかを調べる。その結果、狭窄部分が見つかれば、引き続いてその部分の血管を広げて血流を再開させるために、風船療法と呼ばれる「バルーン療法」と、ステントと呼ばれる網状の筒をカテーテルで血管内に埋め込む「ステント療法」などの治療を施す。

 済生会川口総合病院はカテーテル治療法(冠動脈形成術)では定評のある病院で、毎年200例前後を実施しており、初回成功率は98%だという。カテーテル検査・治療は細心の注意を払いながら行われるが、潜在的な重病で病態が急変する場合がある。この病院では1999年からのカテーテル検査・治療において1名の死亡があったとのことだ。そのため、病院側では心臓カテーテル検査の実施にあたり、患者およびその家族の承諾書の提出を求めている。

一般病棟の廊下
一般病棟の廊下。左手がナースステーション
 カテーテル検査は12月19日の午後3時頃と決まった。そのため、昼食は止められ、予定より遅れて午後4時45分頃手術衣に着せかけられ、ストレッチャーに乗せられてカテーテル検査室に運ばれた。検査室の壁は明るい薄緑色で統一され、中央の天上には患者の術部を照らし出す大きな照明がぶら下がり、その真下に手術台が置かれていた。手術台の横には、6面のモニター画面が2列の配置され、心電図のデータや血圧の値などを監視できるようになっている。その内の何面かは造影剤を注入したときの冠動脈の様子をレントゲンで映し出す仕掛けになっているようだ。

 主治医の内藤医師はすでに術衣を着、帽子をかぶり、両手に手袋をはめて手術台の横に待機しておられた。ストレッチャーから手術台へ寝たまま移されると、右鎖骨下に黄、左鎖骨下に赤、左季肋部に緑の心電図モニターの電極が取り付けられ、右足首が血圧を測るためバンドで固定された。さらに右手首も固定されると、医師はイソジン綿球で褐色の液体を右肘の付近に塗りたくって消毒した。どうやらカテーテルは右肘から上腕動脈に挿入するようだ。部分麻酔が打たれ、麻酔が効いた頃動脈が切り裂かれ、カテーテルの挿入が始まった。

カテーテル検査
カテーテル検査
 残念ながら仰臥した姿勢のままでは、医師の手元が見えない。だが吹き出す血潮をぬぐう医師の動作は見なくても感じられる。医師はおよそ30分ほどカテーテルの挿入を試みた。だが、どうもうまく挿入できないようだ。肩付近の動脈が動脈硬化で石灰化していているためか、それとも特殊な曲がり方をしているためか、そこを通り抜けて冠動脈に達しないのだ。やむなく医師は右肘からの挿入をあきらめ、右足の太ももの付け根から大腿動脈への挿入に切り替えた。イソジン綿球で消毒液を塗り、局部麻酔を施し、しばらく待ってから、再度カテーテルの挿入を試みた。

 今度は挿入がうまくいったようだ。カテーテルを通して造影剤を冠動脈に注入されるたび、胸の奥が熱くなる。それと同時に頭上に置かれていたレントゲンの撮像機が医師の遠隔操作で胸の上まで降りてきて様々な角度から冠動脈の状態を撮影し始めた。その動きがしばらくしてピタリと止まった。続いて医師の悲痛な声が響いた。
「ああ、こりゃ駄目だ・・・・」
医師は検査の継続を中止し、小生にこう伝えた。
「左冠動脈が二股に分かれる手前の主幹部が予想以上に細くなっていて、今にも切れそうな状態になっています。これではカテーテルをその部分に通すことなど怖くてできません。バルーン療法もやステント療法はとても無理です。残された治療方法はバイパス手術だけです」

 結局、検査は1時間半ほどで終了した。狭窄部があってもバルーン療法またはステント療法を施して貰い、数日で退院できるという夢は絶たれた。病室に戻ると、最悪の場合を考えて医師は歩行を病室内に限定した。一般病棟の廊下やその他の場所へ移動したい場合は看護師付での車椅子による移動しか許可しなかった。



次へ 前へ