第一番札所 竺和山 霊山寺
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かって四国八十八カ所巡りのお遍路たちは、難儀な鳴門の海を渡ってやってきた。舟で鳴門に着くと、彼らは撫養街道(むやかいどう)から四国巡礼の旅をスタートさせたという。明石海峡大橋と大鳴門橋ができたことで、本州と四国は淡路島を経由して結ばれた。関西方面と徳島は今や高速道路で結ばれ、渦潮で名高い鳴門の海も、マイカーや高速バスでひとまたぎである。
娘は何事も形から入る性格らしい。四国霊場を歩き遍路で巡拝するには、まず遍路用品を揃えなくっちゃと、張り切っている。服装や所持品に対して特に決まりはなく、全く自由だそうだが、娘の頭の中には、白衣(はくえ)を着、頭陀袋(ずだぶくろ)を下げ、菅笠をかぶり、金剛杖を持った自分のイメージがすでに出来上がっているようだ。遍路用品は四国霊場でも門前店でも取りそろえることができる。だが、娘は第一番札所の竺和山霊山寺で取り揃えるつもりでいる。
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| JR鳴門駅のホーム |
都会暮らしに慣れた我々には、地方都市の風物には一種の戸惑いを感じる。まず始発駅であり終着駅でもある鳴門駅では、若い二人の女性駅員が働いているだけだ。切符の販売から改札など、すべて二人で処理している。乗る電車は二両編成のワンマンカー。車両の後部から乗り込んで整理券を取り、降りるときは車両の前部で運転手が料金を徴収している。正規に乗車券を購入しているにもかかわらず、なぜか整理券を取ることも要求されている。乗客は年老いた女性と女子高校生が数人といったところ。おそらく運行する列車の本数が少ないため、地元の住民はほとんどマイカーを利用しているのだろう。
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| JR高徳線の「板東」駅 |
今夜の宿として予約した民宿「阿波」は、霊山寺の門前にあった。とりあえず荷物を民宿に置いて、遍路用品を揃えるために霊山寺に向かった。宿の主人は、時間があるから二番札所まで足をのばせますよとアドバイスをくれた。
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| 遍路用品を纏った可愛いマネキン |
購入した遍路用品を部屋の隅で身につけていると、店のオバサンが「四国遍路 作法とお経の意味」というタイトルの小冊子を渡してくれた。そして、本日のお参りのために、まず何枚かの納札に自分の住所と名前を書きなさいという。書き終わると、小冊子を開いて遍路の作法について説明してくれた。どうやら遍路にもさまざまな作法やマナーがあるらしい。
通りがかった僧形の男性が、さらに次のようにコメントしてくれた。
「とにかく霊場では勤行次第を守って、しっかりお経をあげるように心がけなさい。最近は先を急ぐあまり、ろくにお経もあげないで立ち去るお遍路さんが多い」
勤行次第とは、開経偈(かいきょうげ)や般若心経、光明真言、大師宝号、廻向(えこう)などをいう。早速、予行演習を兼ねて、霊山寺の本堂と大師堂でお参りすることにした。
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| 霊山寺の本堂 | 霊山寺の大師堂 |
県道12号線に面してそびえる重層の山門の前で合掌し、一礼して境内に入ると、まず手水舎(ちょうず)で手を洗い口をすすぐ。次いで、服装を整え、輪袈裟をかけて数珠をもち、本堂向拝に向かう。大きな屋根の本堂は正面の石段の上に位置している。さすがは一番札所だけあって、本日も参拝客が多かったのだろう。薄暗い堂内に線香の煙が充満している。納札入に納札を入れ、灯明、線香、賽銭をあげる。 後続のお遍路のために、ローソクは上段、線香は中央に立てるのがマナーとされている。
本尊を念じ、合掌し、心静かにお経を唱える。残念ながら初めての経験で二人とも仏前勤行で唱えるお経の節回しを知らない。そのための用心として、あらかじめMDに般若心経などの読経をコピーしておいた。MDから流れる読経の声を二人はそれぞれイヤホンで聴きながら唱和した。他人から見れば、イヤホンで音楽を聴きながら読経するなんて、なんと不謹慎な親子と思えたであろう。
本堂での仏前勤行が終わると、大師堂に行き、本堂と同じ要領で参拝した。以後、同じような作法をそれぞれの札所の本堂と大師堂に繰り返すことになる。大師堂での勤行が終わった後は、納経所に足を運び、そこで所定の納経料(300円)を支払って納経帳に御朱印(宝印)を捺して貰う。だが、霊山寺の売店で納経帳を購入した場合は、すでに御朱印が捺されているので、その必要はないとのことだ。
第二番札所 日照山
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| 極楽寺の本堂 | 極楽寺の大師堂 |
白衣(はくえ)の背中には、大師宝号である「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」と大書されている。「南無」とは帰依すること、「遍照金剛」とは空海が唐の都・長安の恵果阿堯梨(けいか・あじゃり)和尚から与えられた灌頂名である。弘法大師の教えを信じ、自分を大師に任せるという意味が込められていて、参拝の際に大師宝号として3回唱えるが、遍路同士の挨拶言葉としても使われる。
一方、手に持つ金剛杖にも「南無大師遍照金剛」と書かれ、さらにその下に「同行二人(どうぎょうににん)」と書かれている。巡拝する時、たとえ一人であっても、常に弘法大師と一緒という意味だそうだ。金剛杖はいわば弘法大師その人で、いつも一緒にいてお遍路を護ってくれている。したがって、金剛杖を粗末に扱ってはならないとされている。
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| 弘法大師お手植えの「長命杉」 |
境内に紅白の綱を結んだ「長命杉」がある。弘法大師お手植えの杉とされ、樹齢1100年の大樹である。傍らに立てられた説明板によると、この長命杉は千年の風雪に耐えた霊木で、古来より老杉の霊気を受けると家内安全・身体建康を得、長寿を授かるとの言い伝えがあるという。
極楽寺の納経所は売店の中にある。売店のオバサンが親切にもお経の順序を教えてくれた。本堂と大師堂ではお経の順序が若干異なる。大師堂では光明真言はいらないらしい。また、本日歩き遍路で御朱印を求めた巡拝者はたったの5人、それに対しバスツアーでの巡拝者は36名だったと教えてくれた。やはり、今の時期は遍路のシーズンではないらしい。本格的なシーズンは今月の終わり頃からとのことだ。